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本を読み続ける中小企業経営者の読書記録

『上に立つ者の度量』のレビュー

      2020/05/23

『上に立つ者の度量』とは

タイトル: 上に立つ者の度量
     (『貞観政要』が教える究極のマネジメント思考)
著者:田口 佳史
出版社:PHP研究所 (2016/5/25)

おススメ度

★★★★★
(5点/5点満点)

『上に立つ者の度量』の概要

リーダーとして一番大切なこと

・「貞観政要」について
 →唐の「太宗」と側近のとのやり取りをまとめた言行録
  「武の人」から立派な君主へ転換していく際の古典の実践ガイド
  二代目のあり方が長期政権のカギ(創業から守勢へ)
  国が滅びる最たる理由はトップ(君主)にある
お互いの面子ばかり重んじる組織は滅びる
 →相互に指摘しないと問題が隠されてしまう
・ダメな経営者ほど組織をいじりたがる
・1つの商品(象徴的な新しいもの)で会社はガラッと変わる
 (アサヒ:スーパードライ、唐:儒教)
・組織は若手社員の筆頭株から変わっていく
・水を味方にしないと船は転覆する
 →民を畏敬する(恐れるべきは若手社員のコンセンサス)
  見栄を張って民を煩わせてはいけない
・社長の仕事は「業績が上がりやすい会社」にすること
 →宣伝や販促を削ることは社員思いではない
  福利厚生よりも、本業をサポートすることのほうが大事

組織の磐石な構えをつくるために必要なこと

・名君と暗君の違いは、「兼聴」か「偏信」かである
・トップと側近(できれば4人)が一枚岩でないとダメ
 →社長といつも同じ事を考えていることが大事
・「なぜ会社は滅びるのか?」の側近に繰り返し問う
・遠慮なく自分を諌めてくれという
・食事中でも入浴中でも「良い人材」がいたら飛んでいけ
 (それくらいでないと来てくれないし、滅多にいない)
・複数の側近をもち、公平に扱う(個別に話をするのは避ける)

「六正六邪」の教えと究極の人材育成法

・どの部下も「善悪」両方を持っている→善を引っ張り出すのが社長の責任
 ⇒自分が善に徹することが大事(部下は自分の鏡である
・褒めるのは人間、叱るのは規則(規則で褒めても成長しない)

業績アップの秘訣を世界帝国「唐」に問う

・組織的に良い商品が出る体制を作る(営業が汗水を垂らす時代ではない)
・組織のエネルギーが内側に向きだすと業績は下がる
 (社内からは金は入ってこない、内勤率が高まると危険)
 →内向きを乗り越えるには社員の自主性がいる
 ⇒まず損益分岐点をクリアする土台を作ってからチャレンジさせる

社長になったらすぐに後継者選びを始めよ

・リーダーは慎重な人のほうがいい
・畏れを持っている人のほうが人の話をよく聞く
・側近は後継者に選ばない(先代の側近がいるとやり難い)

君が何をするかは天が見ている

・気を緩めたとたんに危機はやってくる
 →「下が気の毒だと思うくらいに働け」(西郷隆盛)
・治りかけの時期が一番危ない
 →大きな事を望んだり欲が出たりするが、焦ってはいけない
・トップは少しでも疑われることをしてはいけない
・社長は全能感を持ちやすいので気をつける
 →「自分は名経営者かも」とか、謙虚な人も変わってしまう
・リーダーとしての人間力をどう養うか
 →「民があっての君」民を思うことに徹することが要諦

新たに得られた知識・情報・気づき・考え方など

  • 「貞観政要」の背景と概要
  • 民を畏敬する
  • 業績が上がりやすい会社にすることが社長の仕事である
  • 良い人材がいたらすぐに飛んでいく
  • 部下は自分の鏡である
  • 規則で褒めても成長しない

『上に立つ者の度量』を読んで実行すること

  • 人の話をよく聞く
  • 自分を諌めてくれる人に感謝する

『上に立つ者の度量』はこのような人にお勧めします

AMAZONを見ていたら、高評価で面白そうだったので読んでみました。
「貞観政要」の内容を、現代の企業経営者に当てはめて説教する感じの本です。

本としてのスタイルは企業の新任社長と、
「貞観政要」に精通した先輩のOB社員(たぶん著者の代弁者?)との
会話形式となっており、とても読みやすく仕上がっています。
まず「貞観政要」の中身についてよく知らなかったので
自分にとってはそれだけでも価値がありました。

東洋思想は、日本人にとっては根本的に馴染む考え方が多く、
経営者の心構えという面でも受け入れやすいと思います。

ただ、「貞観政要」の原典が言っていることと、
現代の企業経営を踏まえた著者独自の考えは、
切り離して読んだほうがよいのかなと思います。
会話の中で、突然「パテント」という単語が出てくる場面があるのですが、
特許(知財)に関わる専門サービスの企業を経営している自分としては
なぜここで??という違和感がすごくあります。
東洋思想研究家として、貞観政要を経営者論にうまく落とし込んでいるのに、
企業経営の細かな実務テーマに関する中途半端な知識を披露することによって
この本の本来の価値を下げるようなことになれば、もったいないと思いました。

それと、まさに「唐」のような大国の君主に関する思想がベースですので
基本的には一定規模以上の会社の社長がターゲットになる気がします。
自分のような小規模企業の経営者ですと、
そもそも「頼れる側近がいない」「後継者どころではない」というのが実態
ということも多いかと思います。

いずれにしても組織を率いる人の心構えとして得られるヒントはとても多く、
なかなかの良書だとは思いました。
これまで「貞観政要」の中身を知る機会がなかった人は、
是非買って読んでみてください。

ということで、最後までお読みいただきありがとうございました!

 - リーダー論系, 書評, 経営(哲学系)